まあ簡単に言えば「ロリコン青年」と過去にその青年と過ごした少女が大人になって再会する話です。が、簡単ではないのはロリコンと言われながら性的な情愛が一切ない青年と、大人になった少女が、その青年を慕い、ストーカーになってるというところ。こう書くと「一体どういう話だ?」と思いますが、原作が良いのか、この映画を監督・脚本の李相日は充分引き込まれる作品に仕上げてる。
『怒り』(16年)にしろ『悪人』(10年)にしろ李相日はいい映画を作るね。原作のお陰というのも大きいが。
さて『流浪の月』(22年)ですが、筆者の評価は、まあ甘目で「秀作」といったところでしょうか。ネット上の評価は大変高い。引っかかるのは、性愛が絡まない「ロリコン」は有り得るのか?ということだが、原作からしてそういう設定で、「ロリコン」と言ってるのは劇中の第三者や、この映画鑑賞者が分かりやすく決めつけているだけで、主人公の青年が言う「この病気」が何の病気なのか映画内では結局分からない(原作、ネット上では指摘があります)。
19才の大学生(取りあえずロリコン青年)から成長した三十数才の男性を演じるのは、松坂桃李で、この俳優はさすがに上手いね。どんな役でもこなす。直近の『孤狼の血・LEVEL2』(21年)のやさぐれ刑事とは180度違う役。
筆者は初め、19才の大学生を松坂桃李だと気が付きませんでした。「随分似た役者を揃えたな」と思ってましたよ。引きの絵だと別人に見える。アップはさすがに松坂桃李でしたが。念のためネットで調べましたが「似た若い役者を使った」などの情報はありませんね。
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さて下記、何となくネタバレになりますが、このコラムの性格上、申し上げなくてはならないでしょう。一応、ご注意申し上げます。
********* 下記、ネタバレ有り
「男の裸」ですが、助演のサラリーマンを演じた横浜流星の濡れ場が数シーンあります。ただこれはネタバレでも何でもなく、男女の絡みシーンで順当な映画撮影手法で、演技を際立たせたモノ。横浜流星自体の露出度は低いです。横浜流星は作品全体を通して質の良い演技が際立ち、当作品で助演演技賞をとっています。
筆者がネタバレと言うのは、松坂桃李が全裸になるシーン。特に「ネタ」が「バレる」という訳ではありませんが、当作品のテーマに抵触する重要なシーンだからだ。
まず驚くべきは、邦画ではまずあり得ない、全身全裸、正面、股間をカメラが確実に撮ってるということ。じゃあチンコが見えるのかと言うと微妙、微かに見えます。これ、ストップモーションにして画面をキャプチャー、画像加工ソフトにかけて、画像の明るさをグイーっと上げれば、チンコが丸見えになるかもしれない。そんな感じですわ。
少なくとも言えることは、撮影現場自体は、股間に前張りとかしてない、現場はすっぽんぽんだったに違いありません。この撮影自体がこの作品の質を確実に上げています。
じゃあ誰が撮影したのかと申しますと、確認して納得。韓国の米アカデミー作品賞作品『パラサイト・半地下の家族』(19年)や名作『母なる証明』(09年)などの撮影監督、世界的に認められているホン・ギョンピョではないですか。
チンコを正面から撮っているのに、日本の倫理コードに引っかからないギリギリのところで映像に収めてる。後でポストプロダクションにおいて加工するという手もあるが、撮影現場で後方の窓の採光や照明の使い方、カメラ自体の絞り、位置等、いずれにせよプロフェッショナルな仕事ですよ。
正直、筆者は松坂桃李をタイプ外としてるので、彼が『娼年』(18年)で全裸奮闘していてもほぼ何とも思わない。ただ当『流浪の月』での脱ぎはグッと来るものがありました。ショットの見事さとテーマに絡むモノが表現されてるからですね。
何かと言うとボカシかけたり、下半身切っちゃったり、股間を避けてパンニング(カメラ移動)したり、そういう腰が抜けてる邦画界に一石を投じた出来だと思います。この撮影は。今や映画界は韓国の方が確実に進んでます。ちなみに李監督は日本生まれの在日三世です。